第10回
ジップレスのウェットスーツを作ることはウェットスーツ屋の夢
ジップレス、ノンジップというウェットスーツを作ることはウェットスーツ屋の夢(目標?)だった。なぜなら生地も伸びるし、縫製するときの糸も伸びるけど、ジッパーの部分だけは伸びないから、ウェットスーツを作るうえで求められている、
動きやすさと防水性という観点において、唯一の欠点だからだ。水が入るというウェットスーツの欠点でいちばんの問題点はファスナーなんだ。つまり、ファスナーから水が入る。そのファスナーをなくす(ジップレスにする)ことによって、水の入りを少なくする。
それから、柔らかいゴムにあんなに硬いファスナーを付けていることがウェットスーツにとって最悪なことで、ファスナーを取ることによっていかに動きやすさと保温力を高めるかということが、ジップレス・ウェットスーツのコンセプトなんだ。
ウェットスーツもコンドームのように柔らかく伸ばすことができて、首からでも足先からでも広げて着られないかなって思っている。
あるとき、40年ほど前かな、切れそうなぐらい伸びるゴムを作ったメーカーの生地で、あるウェットスーツ・メーカーがウェットスーツを作ったんだけど、何回か着ているうちに首回りがゆるくなってそこから水が入ってくるので、1年ほどで生産中止になったんだ。
その後、カリフォルニアのビラボーンが首から着るという同じ形状にして、最初から首回りを大きめにカットして、さらに上からかぶせる方式で作ったのが成功例だね。その当時、ビラボーンは「ノンジップ・ウェットスーツ」って呼んでいた。でも、このシステムでも水は入ることがわかった。
波待ちをしているとき、バックファスナー式のウェットスーツだとファスナーから水が入ってくる。じゃあ、バックファスナーを防水ファスナーにしたらいいんじゃないかということで、YKKが防水ファスナーを発売したんだけど、それだとファスナー自体が硬すぎて、ファスナーの上の部分が首に当たって、擦れちゃってダメなんだ。
そしたらまた、YKKが次にソフトファスナーを作ってくるんだけど、1〜2年でそれも没になっちゃう。それでジッパータイプのウェットスーツはいろいろとカタチを変えていくわけ。
何年か前に、どこかのウェットスーツ・メーカーが「ネックエントリー」というウェットスーツを発売した。それは以前、コンドームのように首のところのゴムを広げて着られる柔らかいゴムの生地で作ってあって、「ネックエントリー、最高じゃん!」ってことになったんだけど、この方式ではゴム厚の薄いウェットスーツにしか使えなくて、やっぱりワンシーズンで没になっちゃったんだ。
ファスナーもYKKがいろいろ試行錯誤しながら2、3年おきに「これはどうですか?」って新製品を開発して持ってきてくれる。なぜならばファスナーなしのウェットスーツを作られちゃうとYKKは自社のファスナーが売れなくなっちゃうから、必死になっていろいろなファスナーを開発するわけ。つい最近も新製品を作って持ってきたけど、波に巻かれるとファスナーが弾けて壊れてしまいダメなんだよ。その繰り返し。