文:川南 正
前回のブログで、最適なサーフィン用のウェットスーツを作るうえで大切なのは、サーファーの動きを考慮すると、パドルがしやすいウェットスーツ作りだと書いたが、とはいえウェットスーツは防寒のために着るのだから、水の出入りの多いウェットスーツはやはり嫌われるんだ。そのために水の出入りを少なくするけど、じゃあ水の出入りが少なくなったからといって、動きが悪くなってもいいのかというと、それはまた別の話になってくる。手首や足首に付ける水切りは、水の出入りを押さえるために付けるものなんだけど、今言った話と一緒で、ウェットスーツに水が入らないようにするということは、着たり脱いだりがしにくくなるということだよね。つまり、動きにくいということに比例してくる。だから、最近はそういう小細工を施したウエットスーツではなくて、逆にそういう小細工は必要ないと。その分だけ動きやすければいいんだみたいな考え方で、ウェットスーツを選んでいるんじゃないのかな。つまり、水切りを付ける人は少なくなった。水切り加工をする分、ウェットスーツの価格が高くなるというのもあるので、なるべく安く買いたいというニーズもあるんだろうけど、おれも自分が着るウェットスーツに水切りをつけていて、海から上がってくると身体は疲れきっているのに、水切りで足首と手首がぴったりしていて、「めんどくせよなって、これ脱ぐのに」って思うんだ。最初にウェットスーツを作ったときは、手首と足首の両方に水切りをつけたんだけど、あるときから、足首はもういらないよという考えに変わったんだね。なぜなら一番脱ぎづらいのが、かかとが引っかかる足なんだ。足がつっかかって、転びそうになりながら、地面の上でウェットスーツを脱がなきゃならないということになる。そうすると、やはり足首の水切りはいらないかなとなるんだね。「水が多少入ってきてもいいじゃん」という結論になったわけ。もともと水は染みてくるんだし、水が入ってくるということは出ていくことだよね、というへ理屈から考えれば、それでいいじゃないということになった。最近は、おれのなかでは手首の水切りもそういう考えになってきている。
さて、ダイビング用の二重の水切りと、ゼロ・ウェットスーツが加工しているサーフィン用の二重にしている水切りとは見た目は似ているけど、意味合いとかの考え方はまったく違うんだ。どこが違うのかというと、ダイビング用ウェットスーツの場合は、内側の生地が外側の生地よりも長くなっている。なぜかというと、ブーツとかグローブを重ねて着るから内側が長くてもいいんだけど、物理的に内側が長いということは二重にする意味がないんだね、水が入らなくするという原理から考えるとね。水を入りにくくするためには内側のゴムが短くて外側のゴムがその上にかぶさって長くなっていなければいけない(ゼロ・ウェットスーツの水切りのように)。それはさまざまな工作機械に付いているゴムのシールを見ると必ずそういうふうになっている。内側が短くて外側が長くなっているんだ。というのは、それは、外側から圧力がかかると内側のやつも一緒に抑えられるから、中に水が入らなくなる。それはオイルシールの構造の原理なんだけどね。だから、ゼロは素手や素足でウェットスーツを着ることを考えているから、グローブをはめるとかブーツを履くということはあまり考えていないし、そのための二重の水切りではなくて、ゼロ・ウェットスーツの水切りはあくまで外側から水圧がかかったときにめくれあがって内側の生地との間に水が入って、体の中まで水が入ってくるのを防ぐための水切りなんだ。
ダイビングの人たちもそういう意味合いもあって水切りにしているということはあるんだろうと思うけど、作り方が全然違う。ドライスーツの場合でも内側のほうが長いんだよ。ビーチを素足で歩くと、たぶん水とか砂が入ってきちゃうと思うよ。膝ぐらいまで石ころが上がってきたりとかさ。よく見ると、サーフィン用のウェットスーツメーカーもそんなことはまったく知らずに、同じように内側の生地を長くしているんだよ。原理がまったくわからないからなんだね。たしかにブーツを履いたり、手袋をはめるときには便利さ。とくに、グローブをはめて何かをしようしたり、手首をいじろうとしたときに、水切りの部分がすごく邪魔になるからね。でも、水切り加工は、内側のゴムは外側よりも短くなければ、意味がないんだよ。ぎゃくにすると水が入ってきちゃうからね。
手首と足首用の水切り。手首・足首ともに加工料は10,000円(税抜き)。
やはり、厳冬期にはあれば嬉しい。
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