文:川南正
ウェットスーツメーカーとしてラッシュのブランドを立ち上げる前に、ウェットスーツの製造をダイビング屋に委託して製造してもらっていた時期があるんだ。そのときに分かったのは、ダイビング屋さんたちはもともとダブルジャージのウェットスーツはなくて、裏がジャージで表がスキンのウェットスーツだったらしく、表側を縫うという発想がなかった。当時、サーフィン用のウェットスーツもなく、カラフルなジャージを作ることは可能だったが必要がなかった。表側のスキンのゴムが擦れて穴が開いてしまうという問題もあって、「それじゃあ、表側にもジャージを貼ったほうが良いんじゃない」ということで、カラフルなダブルジャージのサーフィン用ウェットスーツを作りはじめた。
ウェットスーツの成り立ちを考えると、初めてネオプレンゴムのウェットスーツを作ったときはジャージは貼ってなくて、ただ接着剤で貼り合わせただけのウェットスーツだった。それで、ゴムがちぎれちゃうという問題があり、さらにダイビング用のゴムのウェットスーツは着づらいので、「それじゃあ、裏にジャージを貼ったウェットスーツを作ろう」ということになったらしい。それで、内側だから黒のジャージで良かったんだろうけど、あるとき、誰かが「値段が一緒なら、色つきのジャージでもいいんじゃない」って言い出したんだろうね。反物(たんもの)の織り方を考えると、白の糸で織って、それから染め屋にだして色をつけるという作業なんだ。だから、染める色は黒でも赤でも黄色でも値段は同じだったと思う。そのうち、誰かが「ジャージの色は黒ではなくて、ほかの色でもできるんじゃない」と言い出して、それでいろいろな色に染めたジャージが出てきた。まだダイビング用ウェットスーツの時代だ。ぼくらは、オニールのまねをしてサーフィン用のウェットスーツを作ろうとしたときに、ネオプレンゴムの生地メーカーと話をすると、いろいろな生地の見本を見せてくれる。そうすると、黒のウェットスーツだけでなくて、グリーンとか黄色、赤、ブルーなどのウェットスーツもできるんじゃないかっていう話になった。それで、うちは黒ではなくて、外側に色つきのジャージ、ダブルジャージのウェットスーツを作ろうということになって、それでダイビング屋さんに注文を出したら、ダイビング用ウェットスーツは裏を縫って、外側は縫わないんだと言われた。表・裏の両方を縫うと倍の手間がかかるわけじゃない。だから、表側を、色をつけた糸でステッチを付けたら、かっこよくなるんじゃないかって話になって、「じゃあ、糸の色を変えて表側を縫ってよ」と注文を出したんだ。こうして、ダブルジャージのウェットスーツを作るようになってから、表側のジャージにすくい縫いをするようになった。ということは、いままでは内側に入っていたステッチは、表側に入るようになったわけだ。当時はまだウェットスーツのフルオーダーがなかった時代だから、いわゆる吊るしのウェットスーツをまとめて発注するときに、このジャージ生地の場合はこの色の糸で縫ってねという感じだった。お客さんがステッチの色を指定しはじめたのはおよそ40年ぐらい前からだね。それまでは、ステッチの糸の色とかファスナーの長さを指定するようなお客さんはいなかった。初めて表のジャージにステッチをしたウェットスーツが上がってきたときには、「やったな!」という感じだったね、きれいさが全然違うもの。ゴムとゴムの貼り目、ゴムとゴムとの貼り合わせ面の糊跡が残るので、見た目によっちゃ汚いわけ。それだからというわけじゃないけど、外側を縫うということは糊のでこぼこしている部分をステッチで隠してくれるわけだよね。ウェットスーツがすごくきれいに見えたし、高そうに見える。最初かどうか分からないけど、「ダブルジャージのウェットスーツで表側しか縫わない」と言い出したのは、うちが初めてだね。よそよりも値段が高かったせいもあるけど、ウェットスーツの仕上がりがとてもきれいだったから、そうしたんだ。たぶんオニールは、まだ表側をステッチしたウェットスーツは発売していなかった。でも、股(また)の部分は表側と裏側、両方から縫っていた。ズボンのように、股の部分を真ん中で割っていたので、そうするとケツ(尻)を広げると股が裂けちゃうんだよね。うちの場合は、裏にゴムの補強テープをのり付けして補強していた。当時、ダイビング屋さんに発注していたときは、USAとかRASHとか、3種類ぐらいブランドを作っていて、それぞれワッペンをウェットスーツに縫い付けるだけでね。当時は、横須賀などワッペン屋さんがたくさんあったから。それで、ラッシュではロゴマークをワッペンでウェットスーツに縫い付けてしていた。その後、自分たちでTシャツのシルクスクリーンついでに、シルクプリントで刷っていた。でも、ウェットスーツ1枚1枚に刷るのは、労力が大変だったけど、あれはあれでカッコは良かった。それも1色刷りじゃなくて、2色、3色と色を重ねていたから、おしゃれだった。
話は戻るけど、ダイビング屋さんにウェットスーツを発注していたのはほんの2〜3ヶ月ぐらいだったと思う。ダイビング屋さんに作らせていても自分たちの思いどおりにはできあがってこないことがわかったから、それでかっこいい羽のマークをデザインしてラッシュを立ち上げて自分たちでウェットスーツを作りはじめたんだ。ジャック・オニールに会った時に作り方も知らないのにミシンと生地は勢いで買ってあったから、ゴムの製造元からパレットで来ていた生地と、自分でデザインを考えたサーフィン用ウェットスーツの型紙を作って、ウェットスーツ屋さんに持っていって、縫ってもらっていた。おもしろいのは、ダイビング屋さんに行っても、ダイビング屋さんはミシンも縫うところも見せてくれないんだ。だからどんなミシンを使っているのか、知らなかった。おれが自分でウェットスーツを作ると最初から知っていたのかね?
L/S SPRING ジップレスタイプ 55,000円
プロアマを問わず各種サーフィン大会に出場するコンペティタ−たち、または週末や休みの日があれば毎週のように海に出るサーフホリックたちなど、マグナムシリーズのウェットスーツは、そんなヘビーユーザー向けに新たに開発・デザインされたウェットスーツです。ウェットスーツのことをじゅうぶん理解しているサーファーを念頭に、通常のウェットスーツよりラフに作ってあり、それによりコストを抑え、リーズナブルな価格で提供することができました。スタイルはノーマルジッパーのウェットスーツに近いジップレスのウェットスーツで、いままでのスナイパーシリーズのウェットスーツよりも水の入りが少なくなるように設計されています。
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