第2回
すべて自己流ではじめたウェットスーツ作り
おれは、ウェットスーツの縫製など習ったことなどなくて、縫製は自己流なんだ。ウェットスーツ屋に見学に行ったり、自分で考えたりしながらやってきた。それでセド科学で生地をオーダーしたら、1ヶ月後ぐらいに来ちゃったんで、店に置いていた。
それから自分で縫えもしないのに、さっそくミシンを2台買った。横須賀の友だちでジーパンが縫えるというやつがいたので、「ミシン縫えるなら、いっしょに働こうよ」って店に呼んだら、そいつはミシンをじっと見つめたまま一日中ずっーと動かない。ミシンのモーターさえ動かさないんだ。1日経ち1週間経ち、でもじっーと見ているだけ…、縫えないんだよ、そいつ、うそつきで。
ウェットスーツ用のミシンは2種類あって、ひとつは縫い目が伸びるような縫い方ができるすくい縫いミシン。生地をノリで突き合わせて、この合わせ面の強度を補強するためにこのミシンで縫い合わせるんだ。英語でブラインドステッチって言うんだけど、裏面に縫い目が出てこないように縫う。このウェットスーツ用のミシンはもともと絨毯を縫うためのミシンだったらしいね。それでいまではウェットスーツ用のミシンが開発されて発売されている。
ゼロ・ウェットスーツでは奈良ミシン工業という工業用のミシン屋さんのミシンを使っている。ジューキもおなじように工業用のミシンを製造しているけどね。すくい縫い専用のミシン。最初、ミシンを買っても、ウェットスーツ用に改造しないと縫えない。メーカーはそのまま出荷してくるので、ミシンを販売するミシン屋さんが改造してくれるんだけどね。だから、まず人伝てに改造してくれるミシン屋さんを探しだして、そこでミシンをオーダーして買った。
最初はひどかったね、ウェットスーツの出来は。型紙も最初から自己流。だれにも習ってないんだ、習うのが嫌いなタチなのかな。普通は、人体模型のマネキンを使って型紙を起こすんだけど、おれは頭の中で一晩中考えちゃう。それがまたサディスティックに楽しいんだ。
でもね、そのうちにおれの頭の中で立体図が浮かび上がってくるんだよね。それに棒に突き刺さった直立不動のマネキンではサーフィンの動きは読めないもんね。実際にウェットスーツを着て海の中で動き回らないと、本当のモノは作れないよ。で、最初、どこかのだれかが、「おれはジーパンが縫える」って呟いたおかげで、はじまったウェットスーツ作り。生地とミシンに200万円投資して、1977年にラッシュをスタートさせて、1988年にはゼロ・ウェットスーツをはじめたんだ。