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第16回

ウェットスーツのパターン(型)について

過去のZEROのウェットスーツのオーダーの状況を見ると、半分以上が既製(吊るし)のウェットスーツで、残りがオーダーメイドだった。そのさらに昔は、2割がオーダーメイドで、8割が既製のウェットスーツだった。いま、ZEROの工場では、90パーセント以上、いやそれ以上がオーダーメイドで、既製のウェットスーツは5パーセント以下、もしかしたら1パーセントも既製のウェットスーツを作っていないのかもしれない。

 

 既製のウェットスーツを作る場合は、型をひとつ作ればいくつでも同じウェットスーツが作れる。言い換えれば、袖などすべてのパーツごとにまとめて裁断できるからだ。裁断は機械でもできるしね(ZEROではやってない)。つまり、ウェットスーツを製造する過程において、型起こしがいちばん面倒くさい作業で、型(パターン)さえできていれば、あとはだれでもウェットスーツを作れる。

 普通、洋服の場合、各関節部分でそれぞれ曲げたりして作るというのが一般的な作り方だと思うんだけど、ZEROのウェットスーツの作り方というのは、もともとおれの思考が変わっているのかもしれないし、洋服の勉強をまったくしていない人間なので、機械的なモノの考え方で作っている。もっとわかりやすく言えば、ひじを曲げる場合、同じ型を筋に添って膨らますことによってひじの出っ張りを作っていくんだけど、おれの場合は、直線と曲線を張り合わせることによって、つまり距離の違うものを張り合わせて膨らみを作っていく。

 

 洋服の場合、そういうのをいせ込み(平面である布に丸みをつけて立体的にする技法)って言うらしいんだけど、洋服の生地の場合、当然長さがあわなくなるから、そこに皺(しわ)を作ることによって、膨らみを作る方法なんだ。

 

 おれはそのことをあとで教えてもらったんだけどね。ゴムの場合は延びたり縮んだりするので皺を作る必要性はなくて、皺を作らずに長いものと短いものを張り合わせて、形を曲げたりする。ZEROのウェットスーツはそういうモノの作り方をしているところが何ヵ所かある。

 おもしろい話があって、ZEROのウェットスーツをほかのメーカーが入手して、ばらして型をとろうとしたんだけど、同じ型にならなかったらしい。おれも、修理で戻ってきたウェットスーツをばらしてみたんだけど、「何でこんなカタチになっているんだ?」って思ったね。

 

 ウェットスーツを作ってすぐにばらすと、元のカタチになるんだけど、時間が経つと、ゴムだから元のカタチには戻らないんだね。縮んじゃったところは縮んだままになっているし、伸びているところは伸びっぱなしになっているからね。既製だったら型があるから簡単なんだけど、オーダーメイドだったら、どこで伸ばしたらいいのか、どこで縮めたらいいのかがとても難しい。

 

 一応、ZEROはさまざまなデータを持っているので、生地をカッティングする人間が物差しを使ってどこを何センチ伸ばすとか、何センチ縮めるとか、頭の中に蓄積したデータを駆使して決めている。たとえば、型には外側の線と内側の線があって、外側の線をどんどん伸ばしていくと、反比例して内側の線はどんどん短くなる。どんどん変なカタチになるんだ。それをどうやって調整するのかというのが、オーダーメイドのウェットスーツを作るときのパターンナーの技術なんだね。

 元の型を起こすときは、既製のサイズやそれ以外のサイズでいくつかの型を起こすんだけど、そのあと、オーダーが入ったウェットスーツの計ってきたサイズをそのパタンナーが型を伸ばしたり縮めたりして裁断する。

 

 で、洋服屋さんは型紙用のハトロン紙に鉛筆で線を書いたり消したり修正しながら型紙を作り、そのあとに生地を型紙に沿って裁断するんだけど、ZEROの場合は、作ってある型紙をゴムの生地にあてて、オーダーメイドのサイズに合わせて伸ばしたり縮めたりして裁断して、ウェットスーツを作る。たぶん、そこのところがよそのメーカーとZEROでは違う。また、ZEROで修業していたやつは、たぶんほかのメーカーに移っても、ZEROと同じやり方でやっているんだと思う。でも、それは、意外と難しい。相手がゴムだから、伸びたり縮んだりするからね。

 ゼロ・ウェットスーツでは、この型というのは2年に1回の頻度でデザインを変更している。それは、ウェットスーツを作っていて、「ここが変だな」という理由ではなくて、「次はこういうカタチにしたいな」ってアイデアが浮かんでくるんだ。

 

 そのアイデアというのは、ほとんどがデザイン的な要素だね。この10年で、ウェットスーツの型というのはほぼ決まってしまっている、ZEROの場合はね。でもよそのメーカーでもほぼ決まっているんだよ。だから、あとはデザイン的な変化、見た目の変化だろうね。極端な言い方をすると、洋服の型といっしょ。たとえば、ジーパンの縫ってあるところは必ずヨコ(脇、またはサイド)の部分じゃない。

 でもジーパンによっては、タテに縫っているメーカーがあるじゃない。あれは、一種の変わり者がやっているけど、長続きはしない。それはファッションの一部であって、かならずしも良いジーパンができるわけじゃない。やはり良いジーパンというのはヨコで縫い合わせていて、お尻の部分はタテに縫い合わせているというのが一般的なジーパンの縫製なんだ。それとおなじように洋服の縫製の仕方はだいたい決まっているんだけど、ZEROの場合は、最初からそれを無視している。

 

 なぜ無視しているのかというと、縫い線を縦割りにすると、ゴムはひじょうに壊れやすい。だからZEROのウェットスーツは斜め、斜め、斜めでカットして縫い合わせている。それと十字に割れているところはほとんどないんだ。全部T字型、またはY字型に割れるようにしている。そうすると壊れにくいウェットスーツができあがる。

 

 でもそういうやり方はとても作りにくい。一般的にそういうふうに見せかけているウェットスーツがたくさんあるんだけど、それはただパターンをやるときにそこの部分だけそういう部品を作って、そこにはめこんでいるだけなんだ。でも、見た目にはかっこいいんだよ、デザイン重視で作っているから。でもゼロ・ウェットスーツはデザイン重視ではなくて、壊れないことを重視して作っているんだ。いわゆる機能重視だよね。

 おれは小さいころからおもちゃをばらすのが好きでよく分解していたけど、汽車も電車も自動車も開けてみると、中身はみんないっしょなんだよ。おれは、あれがどうも気に入らなかった。だって、汽車だったら煙が出るわけだから、中でなにかを燃やして走っていくとか工夫が必要だろ。電車は電気で走るし、自動車はエンジンで走るから排気ガスを出すんだ。

 

 つまり、おれは外側より中身がとても気になる、そういう意味では。ウェットスーツだったら、つなぎ目が気になる。ひとつの例としては、バスケットボールというのはスイカみたいに縦割りに切ってある。三日月型の部品を張り合わせてバスケットボールができている。サッカーボールは五角形の部品を張り合わせて作ってある。おれは、昔作って思ったんだけど、野球のボール、あの型はすごいなって。

 野球のボールをウェットスーツのゴムで作ったことがあるんだ。切るのは簡単だよね、平らなものだから。ところが、それを張り合わせる技術がとても難しい。のびちぢみするゴムで均等に丸く張り合わせるのがなかなかできない。あれは、ふたつのヒョウタンみたいな型で丸ができている。野球のボールをウェットスーツのゴムで作ってわかったんだけど、たぶん、おれは立体のカタチに興味があるんだろうね。どうやってできているのだろうかという好奇心がいまのZEROのウェットスーツ作りに生かされているんだろうね。

ウェットスーツの裁断.jpg
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